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親や家族が認知症の可能性について気になり、診断に向けて一歩を踏み出すことは大変重要です。しかし、認知症の確定診断には医療費がかかり、その全体像を理解することが必要です。この記事では、認知症の診断にかかる費用について詳しく学び、家族や患者が必要なサポートを受ける際にどのように備えるべきかを紹介します。
1:認知症の診断と医療費について
認知症の診断にかかる費用は、患者の状態や診断方法によって異なり、また医療機関や保険状況にも影響されます。
一般的な目安として、認知症の診断にかかる費用の平均を示します(記載金額は10割負担時)。
神経心理学検査:700円~2,800円
脳画像検査:15,000円~30,000円(SPECT検査の場合100,000円程度になることも)
遺伝子検査:15,000円~30,000円
1-1:認知症の診断方法
認知症の診断は、患者の症状や状態を評価し、正確な診断を行うためにさまざまな方法が用いられます。以下に、一般的な認知症の診断方法を説明します。
①問診:問診は医師が患者に症状を尋ねて現在の状態を調べます。主に聞かれる内容は、症状や違和感に気がついた時期、既往歴などです。
問診を通して、本人の記憶力や理解力などの認知能力の状態も探ります。ただ、認知症が疑わしい場合、本人の話だけでは正確な状態を掴みにくいこともあります。そうしたときは、一緒に生活する家族にも質問します。
②神経心理学検査:心理学者や神経心理学者が関与し、詳細な認知機能テストや行動評価を行います。これにより、認知症の種類や進行度を特定するのに役立ちます。
ただし、体調によって結果が変動することが多く、検査結果だけで認知症の判断をすることはありません。
有名なものにはミニメンタルステートエグゼンクション(MMSE)やモントリオール認知評価(MoCA)があります。
③脳画像検査:脳の画像検査を行うことで、脳の構造や異常を観察し、他の病態との関連性を評価します。脳の萎縮の状態や脳梗塞、脳腫瘍などを確認し、治療で症状が緩和すると、認知症が改善される可能性があります。
基本的な検査はCT検査やMRI検査で、検査から脳の記憶を司る海馬の萎縮がみられた場合、アルツハイマー病の疑いがあると判断されるケースが多いです。
また、脳の動きを調べるのに使う検査はSPECT検査、PET検査です。SPECT検査は微量の放射性物質を含んだ薬を飲み、臓器を確認します。
一方、PET検査は脳の働きを画像化し、ブドウ糖や酸素の代謝から脳の状態を調べます。
④遺伝子検査:遺伝子検査は、個人の遺伝的リスクを評価するために行われます。
最もよく研究されている遺伝子の1つはAPOE(Apolipoprotein E)です。APOE遺伝子には、APOE ε2、APOE ε3、APOE ε4などの異なるバリアントが存在しており、特にAPOE ε4バリアントはアルツハイマー病の発症リスクと関連があるとされています。
※バリアントとは、同一種の生物集団の中に見られる遺伝子型の違いのことをいう。
1-2:認知症で通院している際に使える医療制度
認知症の患者とその家族は、認知症に関連する医療制度を活用することができます。以下に、一般的な医療制度や支援プログラムについて説明します。
※具体的な内容や提供地域は国や地域によって異なるため、詳細な情報を地域の保健機関や福祉機関、自治体から収集することが重要です。
①自立支援医療制度:認知症で通院している場合、医療費(外来、外来での投薬、デイケア、訪問看護など)の自己負担額が1割になることがあります。市区町村の障害福祉課や保健福祉課で申請します。
→自立支援医療制度の概要ー厚生労働省
②高額療養費制度:医療機関や薬局で支払う自己負担額が1カ月単位で一定額を超えた場合、超えた分を後日、加入している医療保険から支払ってもらえる制度です。保険証に記載してある保険者に申請します。
→高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)ー全国健康保険協会
③限度額適用認定証:入院するためにあらかじめ医療費が高額になることがわかっている場合は、事前に加入している医療保険に申請すると「限度額適用認定証」が発行され、窓口での支払いを自己負担額限度額までにすることもできます。また、払い戻しされるまで無利子で借りられる「高額療養費貸付制度」という制度もあります。
→医療費が高額になりそうなとき(限度額適用認定)ー全国健康保険協会
④高額介護サービス費:1カ月間で負担した介護サービス費の自己負担額が、一定額を超えた場合、超えた分が後日返金されます。市区町村の介護保険担当窓口で申請します。
→例)高額介護サービス費の支給ー東京都渋谷区
⑤介護保険サービス:認知症を発症して介護が必要になった場合、要介護認定を申請して認定が下りれば、介護保険適用の介護サービスを受けられます。
→例)介護保険で受けられるサービスー東京都港区
介護サービス利用の際は保険が適用され、自己負担額は本人や世帯の所得状況によって1割から3割で済みます。
2:認知症治療の費用と対策
2-1:認知症治療の種類と医療費
認知症の症状には、発症すれば誰にでも現れる「中核症状(記憶障害や見当識障害等)」と、本人の性格や生活歴、環境により生じる「BPSD(不安や抑うつ、興奮、徘徊等)」とがあり、症状の緩和や進行を遅らせるための対処法は、「薬物療法」と「非薬物療法」に分かれています。
※認知症のなかには、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など、認知障害の原因を取り除くことで治るものもありますが、そうではない認知症の場合、根本的な治療法は現在のところ発見されていません。
①薬物療法:中核症状、BPSDそれぞれに対応した薬の服用をする療法。
中核症状→神経伝達物質の効果を調整する薬
BPSD→「意欲を高めて、活動的になってもらう薬」と「気持ちを静めてもらう薬」の2種類を区別して服用
薬代として保険適応前の金額で月に15,000円程(成分量により変動する可能性あり)発生
②非薬物療法:薬の服用をせずに、脳を活性化することや、残された身体機能を活かして生活能力を維持または向上することを目的とする療法。
例)回想法、リアリティ・オリエンテーション、認知リハビリテーション等
認知症治療については上記対処に加え、定期的にCTやMRIなど高額な費用のかかる検査を受けていかなければなりません。
2-2:初期段階での認知症の治療方法
初期段階の認知症の治療は、症状の進行を遅らせ、認知機能を維持し、患者の生活の質を向上させることを目的としています。以下に、初期段階の認知症の治療方法をいくつか紹介します。
①認知リハビリテーション:認知リハビリテーションプログラムは、初期段階の認知症患者に対して非常に有効です。認知リハビリテーションは、認知機能を改善し、日常生活の自立をサポートするために行われます。認知リハビリテーションは、思考トレーニング、記憶の訓練、問題解決能力の向上などを含む幅広いアクティビティを提供します。
②生活様式の変更:健康的な生活様式は、初期段階の認知症の進行を遅らせるのに役立ちます。これには、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレス管理、社会的な活動が含まれます。
③社会的活動と精神的健康:社会的な活動に参加し、精神的に刺激を受けることは、初期段階の認知症患者にとって重要です。友人や家族との交流、趣味の追求、文化的な活動への参加などが含まれます。
④サポートと教育:認知症患者とその家族に対する情報提供とカウンセリングが、初期段階の認知症の治療に不可欠です。患者と家族は、認知症の症状に関する理解を深め、適切な対処法を学ぶ必要があります。
初期段階の認知症の治療では、早期診断と適切なケアが非常に重要です。治療計画は個々の患者に合わせてカスタマイズされ、定期的なフォローアップと調整が行われるべきです。医療プロフェッショナルと連携し、患者と家族のニーズに応じたサポートを提供することが、初期段階の認知症の症状管理に役立ちます。
2-3:介護施設や老人ホームの費用
認知症で介護が必要になった場合、入居できる施設には以下のようなものがあります。それぞれの対象者や特徴について解説します。
①特別養護老人ホーム(特養):特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上の方が入居できる施設です。常に介護が必要な高齢者が対象者になります。公的な介護施設で、民間の施設に比べて費用が安いのが特徴です。ただし要介護度や、家族状況などに応じて入居できる順番が決まるため、すぐに入居できない可能性もあります。
入居一時金:0円
月額費用の目安:5~20万円
②介護老人保健施設(老健):介護老人保健施設は、要介護1以上の方を対象とした施設です。病気で入院していた方が退院した後、すぐに自宅での生活を送ることが難しい場合に利用できます。入居期間は通常3~6ヶ月と限られており、終身での入居はできません。あくまで在宅復帰が目標となっており、それに向けたリハビリが行われます。
入居一時金:0円
月額費用の目安:5~25万円
③介護医療院(介護療養型医療施設):介護医療院は、要介護1以上の方を対象とした施設です。特に医療ケアを必要とする、要介護度の高い方への対応が可能です。医師・看護師・薬剤師などが配置されており、医療機関に近い環境で介護を受けることができます。長期入居も可能で、看取りやターミナルケアも行われています。
入居一時金:0円
月額費用の目安:5~20万円
④グループホーム:グループホームは、認知症かつ要支援2以上の方が入居できる施設です。5~9人程度の少人数をひとつのユニットとして共同生活を営みます。専門の職員にサポートを受けながら、入居者ができる範囲で身の回りのことを行います。その施設がある地域に住民票を持っていることが入居の条件になるため、住み慣れた地域でこれまでと近い生活を送ることができます。
入居一時金:0~数百万円
月額費用の目安:10~25万円
⑤介護付き有料老人ホーム:介護付き有料老人ホームは、自立~要介護まで幅広い方々を対象とした施設です。要介護のみの方を対象とした「介護専用型」と、自立・要支援の方でも入居できる「混合型」があります。入居費用は施設によって異なりますが、数千万円という施設も存在します。その分、サービスの充実度は高いといえるでしょう。
入居一時金:0~数千万円
月額費用の目安:15~30万円
3:認知症と家族の支援
3-1:在宅での治療と介護費用
認知症治療を在宅で行うことは、患者が自分の環境で生活を続けることをサポートし、生活の質を向上させるために重要です。
施設に入所するよりも金銭的な負担は少ないですが、精神的・肉体的な負担が発生することもあるため、以下、在宅介護の平均的な費用及びメリット・デメリットを示します。
在宅介護のメリット
①費用を抑えることができる
在宅介護の大きなメリットのひとつは経済的に楽な点です。
例えば、在宅介護生活を送る場合、毎月かかる介護費用はおむつ代や医療費などを含めても平均5万円。有料老人ホームなどに入居した場合、費用は月10万円以上かかることも多くあります。また、持ち家がある場合に自宅の維持費管理費なども含めると、経済的負担は大きくなります。
また、在宅介護で高齢者が生活しやすいように自宅を改修する費用についても、介護保険から1割(一定以上の所得がある方は2~3割)負担でまかなえます。
②本人が安心して過ごせる
家族と暮らしている場合、訪問介護サービスなどを利用したとしても、家族が介護をすることが多くなります。要介護者本人にとって、他人に介護されるよりは家族に介護してもらった方が安心と感じる方は多いもの。また、住み慣れた自宅で暮らせますから、環境変化によるストレスもありません。
ストレスがないと、認知症の進行を抑えられたり、介護予防につながったりすることも考えられます。
在宅介護のデメリット
①サポートが難しい
家族は介護のプロではないため「できること」に限界があるという点です。例えば認知症が重度になった場合や寝たきりになった場合には、プロである介護士のサポートが必要になります。家族の介護をきっかけに、介護の勉強を始める方もいらっしゃいますが、プロの力を一切借りずに介護生活を乗り切ることは難しいケースが多いです。
②介護する側の精神的・肉体的負担が大きい
在宅介護生活は、介護生活を支える家族にかかる負担は決して小さなものではありません。毎日新聞が2016年1~2月に行った調査では、家族の介護を自宅でしている人のうち、「肉体的・精神的限界を感じたことがある」と回答している人は、7割以上となっていました。
認知症患者の在宅ケアにかかる費用は、ケアの種類、地域、保険プランなどによって異なります。家族や介護者は、患者の特定のニーズに合わせて予算を計画し、助成金や支援プログラムを活用することで、負担を軽減する方法を探すことが大切です。また、地域の医療・介護機関や社会福祉団体と協力し、費用負担を最小限に抑えるための支援を受けることも重要です。
3-2:早期発見と対応の重要性
適切な治療を受けるためにも、認知症は早期発見が非常に重要となりますが、認知症は自覚が難しい病気の1つです。かつ痴呆といった言葉のイメージから、たとえ本人が不調や不快感を感じていても病院受診することを拒否する場合があります。
そういった場合には、叱ったり否定せず話に耳を傾け、本人の話を聞いた上で、気軽な気持ちで病院に行けるような土台作りをしてあげることが大切です。
参考文献